愛しい人の名前を呟いてみる。

まるで、呪文の様に、何度も何度も呟く。

でも何度呼んでも、愛しい人からの答えは無く

もう決して、自分の名を呼んでくれないのだと

二度と、その声も、その銀色の長い髪も、その鋭い銀の瞳も

もう見ることも、声を聞く事も出来ないのだと



もう・・・・貴方は居ないのだと・・・・・・・

冷たい、残酷な現実を突きつけられる。




『スクアーロ・・・』



それでも、まるで傷付いたCDの様に、何度も繰り返す。

答えは返って来ないと、分かっていても・・・・・・









ツメタイカゲロウ(T)




―自分の名を呼ばれた様な気がして、思わず振り向く。

その瞳の先には、明るい髪色の少年の姿が映った。
ブンブンと手を振りながら、自分に走り寄って来る。

「バジル君!」

沢田綱吉(通称ツナ)は、息を弾ませながらバジルに声を掛ける。
一見平凡な普通の少年なのだが、この少年がイタリアマフィアボンゴレの
次期10代目だなどと、誰が想像出来ようか。

「こんにちは沢田殿。学校の帰りですか?」

「あ、ウン。バジル君はバイトの帰り?」

「ハイ」

「・・・1人暮らしはどう?」

「ええ、まあ何とかやっています」


バジルは半年程前に沢田家を出て、1人暮らしを始めた。

そう切り出したのは、バジルの方からだった。
一瞬騒然となった沢田家一同だが、これ以上迷惑は掛けられない事と
一度何もかも1人でやってみたいと言う、バジルの意志を尊重した上で家光は承諾した。

「親方様には、色々ご無理を言ってしまいました。拙者の我侭で・・・」

「我侭だなんて、父さんは思ってないよ。何より元気になったバジル君を一番喜んでたし」

「・・・・かたじけない」



フイに一陣の風が吹いて、バジルの細い髪が、風に浚われ一際揺らぐ。

「髪・・・伸びたね」

バジルは風で煽られた前髪を指で掬い上げて、後ろに流す。

髪は、今肩から20センチ程下まで伸びていた。
何時から伸ばし始めたかは・・・聞くには及ばないだろう。
かの人と同じ位に伸ばすつもりなのだろうか・・・・・。

「願掛けです・・・」

そう言いながら、バジルは切なそうな笑みを漏らす。
それは決して叶う筈が無い、願いだったから・・・・・。



「そう言えば今日、お店が特売日だったんですよ。パスタ、100円均一だったもので」

つい沢山買いすぎちゃいましたと、カサカサとビニールの買い物袋を揺らす。

「明日は土曜日ですよね。沢田殿、良かったらウチに来ませんか?」


―あ、そういえば明日は・・・

「拙者の手作りパスタ、ご馳走しますから」



―スペルビ・スクアーロの・・・・・・。





バジルの楽しげな笑顔を横目で見ながら、ツナはもう何も言えなかった。





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彼は約束を破った事がなかった。

破天荒でとんでもない高飛車な男だが、不思議と自分との約束には健気なほど忠実だった。
それなのに・・・・。


「来ないな・・・・」





―来るって言ったじゃないですか。

もう約束の日から3日目ですよ。手作りのパスタ作って待ってるのに・・・・。

どうして来ないんですか、スクアーロ・・・・・・―――












バジルは認めたくなかった。信じたくなかった。


あれが、真実だなどと。



ヴァリアーの掟は、バジルも知っていた。


「弱者には死を。」


この争奪戦で敗者となった守護者に与えられるのは死の一文字。
でも、バジルは不思議と、恐れは感じていなかった。
スクアーロが死ぬ筈が無いと、漠然とした中で何故かそれを信じていた。

彼が生きると言う事は、山本が敗者になる事だというのに。
ボンゴレの存続に関わる事だというのに。

余りにも矛盾している考えであったが、バジルは信じていた。
勝敗の行く末に有る2つの選択に、

彼の『死』など、有り得ないのだと。




だが、その時はもっとも残酷な形で訪れる。




―最後の瞬間、壁に映し出された映像の中で、その刹那。

彼は、バジルを凝視していた。

映像なのだから、自分が見える訳が無いのに何故そう思ったのか。
その鋭い視線は確実にバジルの心を射た。


そして、それが。





スクアーロを見た、最期の姿だった。―――――――









だから封印した。あの日この目で見た真実から目を逸らして、頑なに心を閉ざして。

でも、どれだけそれを認めなくても、彼が居ないという事実は執拗にバジルを追い詰めた。
どれだけ求めても、望んでも、スクアーロはもう居ないという真実。

バジルは気が狂う寸前だった・・・・・・・・・・・・・・。
















バジルはフト、目が覚める。
どうやらテーブルの上でうたた寝をしてしまったらしい。
気だるげに髪をかき上げる。
外を見ると、すっかり夜が更けていた。

「夢か・・・・・・・」

久しく、あの時の夢を見た。
スクアーロの死が受け入れられなくて、気が触れる寸前まで行った自分の夢を。



辛くて、切なくて、苦しくて、息が出来ない程の喪失感、焦燥感。




絶望。





死ねば楽になれるだろうかと、ソレばかりを考えていた。
そうすれば、スクアーロの元に逝けるのだから。

でもバジルは死ねなかった。



何よりバジルを死の一歩手前で留めたのは、スクアーロ自身だった。
最期に見た彼の鋭い瞳であった。

その瞳は確かに自分に『お前は生きろ』と、言っていた。
その視線が、バジル自身の心に絡み付いて、死の淵からこの世に自分を呼び戻す。


「勝手に1人で逝っておいて、拙者には「生きろ」ですか?ズルイですよ・・・・・。」

―貴方はズルイです・・・・。この世に自分1人だけ置いていって・・・・・・。
どうか連れて逝って欲しいと、何度願ったかしれないのに。


―どうやって生きろというんですか?貴方が居ない世界で、どうやって生きて行けば。

もがいて、もがいて
もがみ続けて。それでも生き続けなければ成らない自分。
それでも。



それでも、バジルは1人では無かったから。

「親方様が・・・・仲間が居てくれたから・・・・拙者は」

今を何とか生きていける。でなければとうに生きる屍に成り果てていた。
バジルは皆に支えられながらも、何とか今日まで生きる事が出来たのだ。


それでも、明日だけはどうしても1人で過ごす気にはなれなくて。
ツナを家に呼んだもの、1人になりたくなかったからである。






たった1人であの日に向き合う勇気は、バジルには未だ無かった・・・。―――







....to be continue

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標的111から一年後の話。
スクバジ救済話、別名管理人自己満足話です。(苦笑)
スクは全然出て来ません。
でもスクバジだと言い張ってみる。
スクバジになっていくんです!・・・・その内。(待て)

一応完結させる予定ですが、その前に本誌でスクさんが復活されたら、
この小説は完全パラレルになるんだろうな・・・。

2006.9.16up
2006.9.24サイト移動
    
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